森から住宅を考える
林業家、施工者、設計者の5年にわたる取り組み
山とまちをつなぐ試みは、どこまで達成できたのか?
鈴木喜一×千葉弘幸
林業家、施工者、設計者が主催するイベント「森から住宅を考える」も、今年で第5回目。この試みはどのような展開を見せているのか、鈴木喜一さんと千葉弘幸さんに伺う。
−イベントを立ち上げるきっかけは?
鈴木●実は、ちょうどアユミギャラリーの展示期間に空きがあってね、千葉さんに何かイベントやってみようよ、と声をかけたのがきっかけでした。ちょうどその頃、千葉さんと「内と外がつながった家」、「天野邸」、「武蔵野美術大学吉祥寺校四号館」などの仕事をやっていた時期でしたから、何かの折りに気楽に声をかけた、そんな始まりだったと記憶しています。
千葉◆最初は「何かと言っても一体何をするの?」と言うような感じでしたよね(笑)。それから普段でも良く仕事を組む仲間で、何かできないか考えはじめたんです。千葉工務店と高棟建設、くりこま杉協同組合、山長商店の4社がスタートメンバーです。僕らのような住宅の施工者と生産者が集まるとなれば、やはり「川上から川下へ」という国産材の流通の話が適任ではないかということで企画を進めていきました。そうして始まったのが「森から住宅を考える」なんです。2001年の第1回目から、もう今年で5回目の開催になりますね。
−設計者、施工者、生産者など各業種の交流は普通あるもの?
千葉◆最近でこそ色々なところで工務店同士などの交流があると聞きますが、僕らが動きはじめた頃は、まだあまりなかったのではないでしょうか?ましてや林産地のつながりとなると、無に等しかったと思います。1997年に匠の会のセンター会議(営業担当者会議)にて勉強会で山長商店へ訪れたのが初めてです。おもしろいと思ったのは、この山長商店の山が、木の"畑"であることを知ったのです。まったくの自然だと思っていた山の"森"が実は人間が手を入れて育てているということが分かった。このことがわかった後に目に写る山は、いろいろなことが見えました。こうして日本の山に興味を持っていきました。
鈴木●僕らのアトリエも山と繋がって設計を推し進めたい、日本の山の現状は?外国の山の状況は?と考えていましたから、千葉さんの問題意識ともちょうど歩調をあわせることができた。建築塾の仲間たちも巻き込んで全国各地、北は北海道の旭川から、南は九州の諸塚村まで実地に山を見てまわりました。二、三年そんなことを続けていた時代がありました。
−まちの人の反応は?
鈴木●都会の人間は森のことがほとんど分からないから、国産材の話をしても実感が湧かないんですよね。山に行って現状を見せてもらうのが一番いいのだけれど、なかなかね、文明社会は忙しいから、限られた人しか山に行けない。だから都会のど真ん中に山を持ってこよう。面白いことになるんじゃないかな?という発想です。
何も知らずに神楽坂通りを歩いていた人が、ふとギャラリーの中庭で足を止める。何、これ?という世界を構築してみたんですよ。
突然まちに現れた「欅游庵」に道行く人はかなり反応していましたね。いまでは、今年の夏はいったい何が出現するのかな?という期待感を都会人にインプットさせることに成功しました。その先が日本の山と森につながっていくのだと僕たちは確信しているんですよ。とにかく、子供たちがね、ほんものの木と香りに嬉々としてはしゃいでいましたからね。
千葉◆毎年アユミギャラリーの庭に建てる「欅游庵」は、今年で4代目になりますね。「欅游庵」は、庭に茶室をつくるという構想でしたが、実は落し板パネルをやってみたかったということもあったんです。くりこまのデッキと山長商店さんの構造材、落し板はくりこまの杉を使って造ってみた。そしたらこれはいけると思ったので、この「欅游庵1号」をプロトタイプにして、千葉工務店設計施工の住宅「栗原村」で実戦したり…。そして去年は、「欅游庵」の代わりに「縁台」を制作したんです。
鈴木●まちに森を持ってくるということで「欅游庵」を建ててイベントを行っていたんだけれど、今度はもっと身近なもので、まちの中に溶け込んでいくようなスケールを考えた。山からまちに森が移動し、今度はそれが生活にまで普及されていくストーリーです。
千葉◆僕らが考えていたのは、石油製品の取って代わられたものを、また木材に直していきたいということでした。縁台はそのひとつ。今年は踏み台、来年には卓袱台(ちゃぶだい)をやりたいと思っています。日本には山がすぐ近くにあって木材があるのだから、石油を使うのではなく、リサイクルもできる木材を使おうという呼びかけのつもりです。
この時、縁台には、くりこま材や山長商店の材だけではなくて、全国各地の林産地に声をかけて、材を提供してもらって作りました。国産材の良さをまちの人達にも知らせたいと、今は各産地の誰しもが切に願っているはずです。どんな小さなイベントだろうと関係なく、意識ある産地さんはこういう場所に積極的に名前が出ているんだと思います。
−これまでに産地にはアピールする術がなかった?
千葉◆普通林業の方なら製材屋、製材屋なら市場など、直接の商売相手しか見ていないんですよね。エンドユーザーである建主にアピールしても意味がないという意識があるのではないでしょうか。しかし、イベントに参加している山長商店やくりこま杉協同組合は、自分達のユーザーは建主さんだという意識をきちんと持っている。
鈴木●神楽坂建築塾には設計者・工務店・林業家の人たちも参加しているんですよね。そこで、日本の山の現状や、国産材のことについての講座を開く。実際に山にフィールドワークに行ってみる。僕たちはその延長線上で設計活動をしてますから、顔の見える山がどうしても放っておけなくなる。
日本の山のことを考えると、設計仕様に国産材を積極的に盛り込むというのは当然のことになってきますね。仕事に応じて、関係者みんなと山まで行って、実際に木材を見て、製材する人の話を聞いて、気を知ってデザインに活かすとうことは必要ですよね。カタログやサンプルだけで仕様を決めるのはとても危険ですよ。木に対する思い入れや使い方の幅も広がってくる。
−生産者、施工者、設計者の連携は、どのように活かされている?
千葉◆僕の方から、鈴木先生に木材の提案などもとてもしやすくなりましたね。その逆で、先生がよく使う焼杉は、今はうちの仕様にもなっています。
初めは「武蔵野美術大学四号館」で外壁に焼杉を張りたいといわれて、やったことがなくて困ったけど、岡山の建築家・楢村徹さんに聞きに行って、四国の人とも交流できるようになった。やはり施工者の立場からは思いもつかないようなアイデアとノウハウをもらえるのは、とても大きいことだと思いますね。こういう関係から生まれる実験的なこともいろいろと試していきます。
鈴木●僕らも「いい材料があるんですけど、どうですか」というやりとりから設計仕様を決めることも多い。気心の知れた仲でそういうやりとりが自由にできるのは、とても楽しいことです。
設計者でも木のことを本当に分らないで仕様を書いているということもあるんじゃないかな?
くいくように努力してますけどね。こういうのを最近はコラボレーションっていうのかな?。
設計者・施工者間でのこういうやりとりは必要だと思います。デザインはそういうバックグラウンドがあってはじめてはじめて成立するんですよ。
国産材に対する認識の違いも影響してきますよね。設計者側は国産材に対してすごくこだわる。でも、施工側は全然こだわらない。その逆で、設計者が全くその辺での意識がなくて、工務店側の自然素材にこだわる場合もある。これではいい仕事にいなっていかないと思います。共通認識がないんだからね。
千葉さんとは、その辺の共通した土壌があったというのがとても大きいですね。ベーシックなところで話が噛み合っていると、とても仕事がしやすいんです。ところが初顔合わせの設計者と施工者では、スタート時点が違うから、なかなかお互いの思想を理解しあうまでが難しい。初顔合わせでもうまくいくように努力してますけどね。こういうのを最近はコラボレーションっていうのかな?
千葉◆設計事務所がデザインし、施工は工務店が行う。それぞれのプロがお互いの立場を認識してコラボレーションできたら、これ以上のものはないと思います。
設計事務所のデザインをかたちにすることだけを要求され、素材が選ばれたりする。それでは自分たちの住宅に対する思いとは違う、すれ違った状態で言えづくりをすることになりますね。
5年間イベントを続けてきて
鈴木●ひょんなことから、偶然出てきたイベントなんだけれども、とても社会的貢献度の高い企画展になってきていると思います。神楽坂で話を聴いて、木に触れて、山に行こうと思う人もずいぶんいるんじゃないかな。こういう活動に啓発されて、積極的に木造の家作りに関心を持つ人が増えてくるといいよね。あんまり楽観もできないけれど、一軒の家を依頼したくなるような受け皿をこれからは用意したいですね。
千葉◆このイベントを行ってきて、反応も多く、宣伝活動にはなっていますが、まだ直接の仕事には結びついてこないというのが現実ですね。
もちろん自分達が面白がってやっているとこんなんだけれど、やはりこれだけのことを続けていくのは大変なことですから。
鈴木●そうね。実際の仕事に結びついて、具体的に住宅というかたちで社会にコミットできるといいですね。でもこの企画は、続けていくことが大切だよね。
千葉◆続けていかなければならないし、これからは産地の意識を改革していかなくてはいけないと思っています。実は僕達が山に行くと、
山のことを考えてくれている人もいるんだってびっくりする方も多いみたいなんです。そういう機会にも触れていない産地もまだたくさんあるはずです。
これからもどんどん交流を増やしていきたいと思いますね。
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